限定の居酒屋
「体内のナトリウムが減ると、それに反比例して血液中のカリウムが増える。
するとカリウムとナトリウムのバランスが改善されて、血圧が下がるんです。
つまり、漬ものの中のナトリウムは血圧を上げてしまうが、カリウムがそれを妨げてくれるという寸法です」単純に塩だけに目くじらをたてるのでなく、ナトリウムとカリウムのバランスで考えれば、むやみに漬ものを避ける必要はないのだ。
「だいたい塩分を減らせっていったって、簡単に減るもんじゃないですよ。
日本人は米、野菜、いも、豆類が好きでしょ。
どれもカリウムが多いから、どうしたってナトリウムをとっちゃうんです」また、人間の細胞はカリウムを多く含んでいるのだが、カリウムはナトリウムがないと細胞の中に入っていけないという。
だからある程度のナトリウムは必要なのだそうだ。
では、その「ある程度」というのはどれくらいの量なのだろう。
「一般には、塩は一日に10グラムまで、とされています。
ところが日本人の塩摂取量はなかなか3グラムより減らない。
それどころか、最近は増える傾向にあるんです。
だから塩分の入った食品に対して、ちょっと神経質になってるんじゃないでしょうか。
ただ、日本人はワカメやコンブ、ひじきなどの海藻類を、国民平均で3グラム食べている。
海藻に含まれるアルギン酸で2グラムの塩の排世が可能だから、3グラムまでは許容範囲だと、私は思うんですがね」人間の生理を無視して減塩を奨励しても、功を奏さない。
不自然な抑制はときに、こんな笑えないエピソードを生むことすらある。
「腎臓病で入院していた患者が、病院の食事がおいしいってパクパク食べていた。
ところがその隣の肝臓病患者は、あんまりまずいんで、これなら死んだほうがましだといってね、自殺しかけたんだそうです。
それ、食事が入れ替わってたんだって。
本当の話なんですよ」フグ料理は、古くから日本人の舌を魅了してきた冬の味覚だ。
しかし世界広しといえども、毒をもつ生物をこれだけ食用として愛好しているのは、日本だけである。
必然的にフグ毒への関心も高い。
「フグにあたると、しびれや麻簿、運動不能や呼吸困難を起こして、最悪の場合は死んでしまいます。
それはフグ毒に、神経の中にあるナトリウムチャンネル、つまり情報伝達のさいにナトリウムが通過する部分をブロックする作用があるからなんです」その元凶、テトロドトキシンという神経毒を研究しているのが、T大学海洋研究所助教授のKさん。
料理屋で出されるフグは、毒のある肝や卵巣を除いたものだが、じつは皮膚やほかの部分も微量の毒を含んでいるという。
さらに驚くことに、フグ毒は、フグの専売特許ではないそうだ。
「じつは、フグ毒をもっている動物はほかにもかなりいて、広く分布しているんです。
たとえば、カリフォルニアイモリやハゼなどもそうです」どうしてフグとは縁もゆかりもない生物たちに、同じ毒があるのだろうか。
これらのすべてがフグ毒を生産する共通の遺伝子をもっているとは考えにくい。
「フグ自身がフグ毒を作る能力をもっていることは必ずしも否定できません。
紗養殖フグには毒がないしかし、フグ自身が毒を作るのではなく外から来ているのでは、ということが以前からいわれていました。
というのも、毒の量は個体差、地域差、季節差が大きいんです。
それに、養殖のフグには比較的毒が少なく、天然ものには多いということも知られていましたから」そこである学者が、養殖された無毒のフグに毒入りのエサを与え続けたところ、毒が体内に蓄積していったという。
つまり、外因により毒化することがわかったのだ。
では、その毒の生産元は何か、という新たな疑問に突き当たる。
「そこで注目されたのが海洋細菌なんです。
バクテリアなら、海の中にいくらでもいますからね。
これなら、系統上まったくかけ離れた動物たちにフグ毒が存在することも、うまく説明できるわけです」さっそく養殖場の海底の泥を調べてみたところ、予想以上に大量のフグ毒、あるいはその関連物質が検出された。
そして、その泥の中にいるバクテリアを分離し、増殖させて精製したところ、その毒の生産量はかなりのものだったという。
「以前、東京湾の近くの泥を調査したことがあるんですが、その泥ひとつかみで、ネズミもネコも簡単に死んでしまう量でしたね」ミステリー小説にも使えそうな話ではないか。
もっとも、人間の致死量にすれば体重50キロの人で0.5ミリグラム、泥を1キロ以上食べなきゃ死なないわけだが。
「これだけの毒が海中に普遍的に存在する以上、生産するバクテリアもかなりいるとみて間違いありません。
そして何らかの形の食物連鎖によって、海中の生物のほとんどが毒をもっていても、不思議じゃないですね」日本人は海産物に大きく依存した食生活を送っている。
いま食べている魚に毒が含まれていてもおかしくないのだ。
ただ、微量ゆえ中毒を起こさないというだけの話である。
そこでいちばん興味深いのは、なぜフグだけが自分の毒にあたらずに多量に蓄積できるのか、という点である。
「それがよくわからないんです。
フグはどういうわけか進化の過程で、毒をためこむ機構を備えてきたとしかいいようがありませんね」フグが毒をもつ最も自然な理由として、Kさんは防御説をあげる。
「フグに電気ショックを与えると、毒をピュッと出すらしいんですCつまり身に危険が迫ると、毒が出るしくみになっているんですね。
もし魚がフグ毒の味を知っていたら、フグを追いかけているときにフグが出した毒をなめてまずい、かみつくとやられるぞとばかり、攻撃をやめるでしょう。
それが目的なんじゃないでしょうか」フグがブーツとふくらむこととは、何か関連があるのだろうか。
「あれとは関係ありません。
いや、もしかすると皮層の表面の毒を分泌する細胞と、何か関連があるかもしれませんね。
しかし、何しろまだフグ毒については不明な点が多いんです」第一、バクテリアが何のために毒を出すのかという基本的なことがわかっていないし、それを解決しないと、フグ毒に関するさまざまな謎は解けない。
「私個人としては、海中のナトリウムが鍵を握っているんでは、と思うんです。
海洋細菌がエネルギーを作り出すのを、ナトリウムが助けているんじゃないかと。
細菌にとっては、ほかの生物の神経を麻庫させても何の得にもならないから、むしろナトリウムの働きを制御することが目的なんじゃないか。
有機物の少ない貧しい環境の中で、よりよい生存環境を作ろうと毒を出しているのでは、と考えているんです。
いずれにしても、海の中のことはまだまだ神秘のベールに包まれていて、興味は尽きませんね」「水はダダ」という日本古来の感覚は、もはや消えてなくなった。
いまデパートやスーパーでは、さまざま「水」が商品となって陳列されている。
これらの値段は牛乳よりも、ガソリンよりも高く、水道水のじつに2千倍。
にもかかわらず、この5年間にミネラルウォーターの消費量が13倍にもはねあがったのは、水道の水が、いかにまずいかを表しているにほかならない。
「私が水の味について研究を始めたのは30年くらい前ですが、それ以前は、水の味なんてものが話題になることはありませんでしたね。
そもそもおいしい水という概念がなかった。
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